【音楽留学のHOW TO】直感で決めた留学先”スイス”。言語の壁は高いが…先生との距離は近い!?古楽を学んだ声楽家に聞く、留学して変化したこと。

ソリストや声楽アンサンブルメンバーとして活動されているメゾ・ソプラノ歌手の曽禰愛子さん。スイス・バーゼルの音楽院”スコラカントルム”への留学前の準備から現在に至るまで、たっぷりお話を伺いました!

Profile
曽禰 愛子 / Aiko SONE
鹿児島国際大学短期大学部音楽科、同専攻科卒業。洗足学園音楽大学大学院 音楽研究科修了。第32回国際古楽コンクール〈山梨〉ファイナリスト。スイス・バーゼル・スコラ・カントルムにてBachelor及びMasterを修了。幅広い時代の作品をレパートリーとし、ソリストおよび声楽アンサンブルメンバーとして活動しており、ヨーロッパ各地でのコンサートに参加。声楽を川上勝功、ウーヴェ・ハイルマン、ゲルト・テュルク、ローザ・ドミンゲスの各氏に師事。

──まず、曽禰さんのご経歴を教えてください。

曽禰さん:地元は横浜ですが、鹿児島に師事したい先生がいたので4年間は鹿児島で音大生をしていました。その後、先生が洗足音楽大学でも教えていたので、 そこの大学院に2年間在学したのち、卒業後は興味を持っていた古楽を学ぶためにスイスのバーゼルへ留学しました。スイスでは学部と修士の6年間を終えて昨年(2021年)の8月に完全帰国しました。現在はメゾソプラノ歌手として、日本で音楽活動をしながらコンサートホールスタッフとしても働いています。

──現在は主に古楽で活躍されていますが、最初は声楽専攻だったのですね。

曽禰さん:そうですね。最初からすごく古楽をやりたかったというわけではなく、日本では一般的な声楽を学んでいました。私の父が昔から古楽が好きで、アマチュアとしても活動していたこともあってか、ほかの音大生よりも古楽に触れる機会は多かったと思います。

──いつ頃から古楽で留学しようという思いがありましたか?

曽禰さん:大学院を卒業する頃です。もともと学部生の時に先生からバッハのカンタータや宗教曲などを勧められることが多くて。自分でもオペラなどよりも古楽が好きだなと、ずっと思っていました。大学院を卒業する頃に改めて古楽が好きだと感じて、より専門的に学ぶための留学を意識しました。

留学中の様子

──スイスに留学するきっかけを教えてください。

曽禰さん:古楽を学ぶとしたら、オランダやベルギーなどにも有名な学校があります。本来であれば、留学の準備をする際は一通り様々な学校を比較検討して考えるべきだと思うんですが、バーゼルに古楽の分野で有名な学校があって。さらに、知っている先輩が留学していると聞きつけて、「そこがいい!」と、あまり他の選択肢を考えず、その時の勢いで決めました。

あとは、留学を考えていた時期に、ゲルト・テュルク先生というスイスで師事していた先生が日本でマスタークラスをしていて。知り合いの方に「古楽に興味があるなら聴講してみたら」と言われて聴講しに行きました。その時に良い意味で「今まで就いていた先生と教え方やアプローチが全然違っていいな」と思ったのがきっかけであり、スイスに行ってみたい!と思った1番大きな理由かもしれないですね。

──留学するまでの準備期間で行ったことや大変だったことは?

曽禰さん:私は留学準備期間が1年半くらい。そして留学前にしたことは、先生とコンタクトを取ることです。私は運良くその先生が定期的に日本に来ていたので、ちょうど来日されているタイミングで、同じ演奏会に出演されていた方に頼んでご紹介していただきました。当時は英語がペラペラに話せたわけでもないので、事前に「留学してみたくて、先生とコンタクトが取りたいです」と伝えたいことを英語で書いて、そのカンペとともに楽屋に行きました。そして留学準備期間中に先生と連絡を取り合い、1度レッスンを受けるためにドイツまで行きました。それが1人での初めての海外渡航。先生が本当に親切な方で、1週間弱くらいの滞在中は「毎日来ていいよ」と言ってくださり、毎日のようにレッスンをしていただきました。あと受験準備で大変だったことは言語です。当たり前ですが、学校のホームページなど全て英語ですし、今まで外国語の資料を目にすることが全くなかったので、詳しい人に質問するなどして準備をしました。

最後のマスターリサイタルのあと、
お世話になった師匠とのツーショット 

──留学中、1番大変だったことは何ですか?

曽禰さん:留学中に1番最初にぶつかるのはやはり言葉の壁です。もちろん準備もして、試験に合格してからも勉強していたのですが、日本で教室に行って勉強するのとネイティブの方々の輪にいざ入るのとではやっぱり全然違いました。周りの同級生たちはとても優しくてたくさん助けてくれたし、イベントがあると呼んでくれていましたが、最初の1年くらいは一緒にいてもなかなか自分が思うようにコミュニケーションが取れないし、仲良くなれないかも…と思う時期もありました。

──やはり言葉の壁が一番大変なのですね…。

曽禰さん:でも日本人の留学生や、そのままスイスに住んでいる日本人もたくさんいたので、どうしてもわからないことや母国語でしか話せない込み入った話などは周りの日本人に頼りましたし、「日本食、食べたいよね」って日本人が集まって和食を食べたりとか、そういう時間はとても大事でした。ホッとするし、すごく助けられましたね。

なので、周囲の方々には助けていただいてばかりでした。特に古楽の関係では父がアマチュアで長年演奏している中で培った人脈を頼ったりとか。留学先の日本人仲間がすごく優しくて、困った時にすぐ手を差し伸べてくれる人が周りにたくさんいらっしゃたので、本当に感謝しています。

アルプスの雄大な山々を目の前に 

──スイスに留学して、日本の大学と違うと感じたこと、新鮮だなと感じたことはありますか?

曽禰さん:スイスでは学生と先生の距離が近く、先生同士の壁も無かったために門下合同でプロジェクトをしたり、「他の先生の授業に行って来なよ」と言ってくださったりもしました。先生側からも「いろいろ経験した方がいいよ」とプッシュしてくれるので、学生側がストレスなく自由に色々なやり方を見て取捨選択できるっていうのは、日本の大学だと意外と難しかったりするのでそれはすごく良いな、と思いました。

──色々なやり方を見られるのは素敵ですね!留学前と後で、音楽に対する気持ちや自分自身の心の変化はありましたか?

曽禰さん:留学前よりも自分の意見を言えるようになりました。向こうではレッスンだけでなく、プラスでいろいろなプロジェクトに参加したり、学生同士で何か企画するとか、そういった経験をたくさんさせてもらいました。その中で自分から「こうしてみたい」とか「こんなのはどう」っていう提案を昔より積極的にできるようになったかなと思っていて。それは言葉も通じない中である程度こうしたいということを主張しないと物事が進まないっていう中で得られたものかなとは思いますね。

学校のプロジェクトの演奏会リハーサル 

──留学中にコロナ禍になってしまったと思うのですが…。

曽禰さん:修士課程最後の試験であるリサイタルが6月に予定されていたのですが、3〜4月にロックダウンになってしまい、学校も完全に閉鎖となったために練習へも行けませんでした。6月頃に予定されていたコンサートは全部夏以降に延期するという知らせが学校から届いたり、飛行機も日本への便がどんどん減ってきたりして、私含め日本人の留学生たちも混乱していました。

日本への帰国はギリギリまで迷いましたが、結局コンサートもさらに延期となり、それまで練習するために大学へも行けずだと何もすることがなくなってしまうので、急いで飛行機のチケットを取りましたね。親にも「明日帰るから!」と急に連絡し、慌てて帰りました。授業は日本にいながらオンラインで受けられたので何とかなりましたが、やっぱりその時期は1番不安な時期でしたね。

あと修士課程の最後のリサイタルは一応できましたが、1つのプログラムで舞台に乗れる人数や演奏時間への制限がかかってしまったことで、何曲か削ったりプログラムを変えたりしましたし、本番に向けて組んでいたスケジュールを再度考え直さなければいけませんでした。母もリサイタルを聴きにスイスまで来る予定だったのですが来れなくなってしまって…。代わりにオンライン配信があって映像で見ることができたのですが、やはり色々な状況が変わってしまいましたね。

学部(Bachelor)修了のセレモニー 

──留学を終えて、今後の目標を教えてください。

曽禰さん:コロナ禍で今すぐには難しいかもしれませんが、せっかく留学でつながった人脈を活かして講演会を開きたいです。私は留学先で素晴らしい先生や演奏家とたくさん出会ったので、そういう知り合いを呼んで、日本にいても最先端のことを日本人がもっと簡単に知ることができるようになるといいなって思います。コロナが落ち着いたらそういう企画のようなものができたらと思っています。

──では最後に、おとペディアの読者にメッセージをお願いします。

曽禰さん:留学って、する前は大きなこととか大変なことのように感じると思いますが、その分得られるものがたくさんあります。音楽や自分の専門分野のことだけでなく、まったく違う環境に身を置くことで人間的な成長や心の変化をもたらしてくれると思います。なのでチャレンジすることを恐れず、いろいろなことに挑戦してほしいです。


【公演情報】

◎ハインリヒ・シュッツ没後350周年
「アレマン人エンリコ・サジッターリオ-処女作『マドリガーレ集第一巻』と同時代のヴェネツィアの音楽を集めて-」
日時:10/15(土) 14:00開演
会場:ウェスレアン・ホーリネス教団 淀橋教会 インマヌエル礼拝堂
入場料:一般:5000円 学生:2500円(オンライン配信チケット: 1500円)
ご予約、お問い合わせ:
SHOWCASE : http://www.t-showcase.com/
Mail: info@promsinc.com
TEL: 03-6887-1034
助成:AFF2 補助対象事業
主催: Promusica Continuo Co., Ltd.

◎音楽による礼拝 Vol.2
「市民の祈りと楽しみ-18世紀ハンブルクにおける音楽生活」

東京公演:11/16(水)  19:00開演
     日本福音ルーテル東京教会
神奈川公演:11/20(日 14:30 開演
     ひらしん平塚文化芸術ホール 多目的ホール
札幌公演:12/15(木)  19:00開演
     ふきのとうホール
     (後援:札幌市、札幌市教育委員会、北海道新聞社)

入場料:
[東京公演] 前売り:4000円 ペア:7500円 学生(大学生以下):2500円
[神奈川、札幌公演] 前売り:3500円 ペア:6500円 学生(大学生以下):2000円

ご予約、お問い合わせ:a.caldara.kinenensemble@gmail.com
050-5240-0345(10:00〜18:00 月〜土)

助成:AFF2 補助対象事業
主催:アントニオ・カルダーラ記念アンサンブル