【Meet The Orchestra】日本発のあたらしい“オト”を世界へ届ける。アンサンブル・フリーJAPANの新たな一歩に密着。

アンサンブル・フリーJAPANとは、2022年に新設され、クラウドファンディングでは達成度100%を超えた団体として話題になっているオーケストラ。今回は指揮者の浅野亮介さんと作曲家の山本和智さんのお二人に、第一回公演や新曲のお話、音に対する想いなどを取材しました。

日本の新しい音楽を世界に発信し、未来に残すために
私たち日本人は古来より豊かな文化を保持し続けてきました。それは現代でも衰退することなく、音楽の分野においても優れた才能を輩出し続けています。インターネットによって簡単に世界中と繋がることのできる現代、アマチュアとプロフェッショナルが一体となって日本発の音楽を世界に発信し、新たなクラシックとして未来に残していくことが必要だと考えます。
アンサンブル・フリーJAPANは、アンサンブル・フリーWESTとアンサンブル・フリーEASTの両オーケストラが支える、高いレベルを有した若手のプロ奏者および音楽を専門に学ぶ学生から構成されるオーケストラです。日本の新しい音楽を世界に発信し、後世に残していくために、様々な音楽活動を展開します。

https://ensemblefree-japan.com/index.html#introduceより

指揮者 浅野 亮介(あさの りょうすけ)
神戸大学国際文化学部を経て同大学院博士課程前期課程修了。大学院では美学理論を学び、シェーンベルクを中心とした20世紀初頭のドイツ音楽を軸に、古典派からロマン派まで広く研究対象とする。 2000年に関西で自らのオーケストラ「アンサンブル・フリー」を設立し、国内の優秀なソリストとの共演や100名を超える大規模な楽曲に積極的に取り組んでいる。 2013年には、より新しい音楽を開拓するため東京にて「アンサンブル・フリーEAST」を設立。毎回の演奏会で新作の委嘱および初演を行い、多くの音楽家や作曲家の支持を受けている。 2019年、アンサンブル・フリー第30回演奏会を機に関西のオーケストラを「アンサンブル・フリーWEST」と改称。 2022年に有望な若手プロ奏者および音楽を専門に学ぶ学生から構成される「アンサンブル・フリーJAPAN」を設立し、従来のクラシック音楽から最新の現代音楽まで、国内外に幅広く発信するために意欲的な演奏会を企画している。



作曲家 山本 和智(やまもと かずとも)
1975年生まれ。独学で作曲を学ぶ。
オーケストラ、室内楽、アンサンブル、合唱、独奏曲、映画音楽など作曲活動は広範にわたり、作品は日本をはじめカナダ、フランス、ドイツ、オランダ、ベルギー、アメリカ、マレーシア、ロシアなどで広く演奏されている。
2006年モリナーリ国際作曲賞第1位、2007年AIC/Mostly Modern国際作曲コンクール第1位、2009年度武満徹作曲賞第2位(審査員:ヘルムート・ラッヘンマン)、2010年第5回JFC作曲賞(審査員:近藤譲)など受賞多数。
2020年に発表した「浮かびの二重螺旋木柱列」(サントリー芸術財団委嘱)は、2人のマリンビスト、ガムラン、オーケストラという未曾有の音響による大規模な作品として大きな注目を集める。
また、2009年より『特殊音樂祭』をプロデュース。現代音楽ファンのみならず多くの聴衆を獲得し注目度の高いイベントへと成長させた。和光大学表現学部総合文化学科非常勤講師。


新進気鋭の演奏家が集まるプロフェッショナルオーケストラ、『アンサンブル・フリーJAPAN』とは?

浅野 亮介さん
──アンサンブル・フリーJAPAN、立ち上げのきっかけは?

浅野:僕が長年指揮をしているアマチュアオーケストラのアンサンブル・フリーWESTやEAST*が充実してきて、次のステップとして、山本さんのような日本の現代作曲家の素晴らしい作品を多くの方に聴いていただきたいと思いました。しかも、プロの演奏家によるハイレベルな演奏でお届けできればもっと皆さんに楽しんでいただけるのではないかと考え、新たにこのオーケストラを立ち上げることになりました。

*浅野氏が大学卒業と同時に立ち上げたオーケストラ「アンサンブル・フリー」、2019年に「アンサンブル・フリーWEST」と改称。2014年には東京に「アンサンブル・フリーEAST」を立ち上げた。より詳しい情報はこちらから→https://ensemblefree.jp/#orchestra
過去のMeet the Orchestra→https://www.oto-pedia.net/archives/2689

──出演メンバーを拝見したところ、若手のプロ奏者に加えて学生もいらっしゃいますね。

浅野:はい。学生とはいえハイレベルな方はたくさんいらっしゃいます。なので、将来的にプロの演奏家となるような方なら早い段階でも遜色のない働きをしていただけると思うので、年齢は分け隔てなく一緒に音楽を作っていければと考えています

──今回のプログラムではモーツァルトやハイドン、ブラームスに並んで現代音楽が組み込まれていますが、どういった理由があるのでしょうか?

浅野:一番の理由は“面白い”し“楽しい”からですね。山本さんには以前《室内合奏曲》というリモート用の作品を書いていただいて*、これは普段の生活での雑音のようなものばかりを集めた曲なのですが、聴いていただいた方にクラシック音楽などと並べて「どれが面白いですか」と聞いたら、山本さんの作品がダントツで人気なんですよね(笑)クラシック音楽というくくりで言えば、ブラームスとかベートーヴェンとか皆さん好きで聴かれると思うのですが、音楽ジャンル全体ではクラシックよりもしかしたら現代音楽の方が面白いのかもしれない。なので、クラシックを超えたオーケストラ作品の充実を考えた時に、現代音楽は是非とも入れたいと思いました。
*リンク参照…https://youtu.be/tVZLIktULIs

1番最初に共演したのは7年前の『尺八コンチェルト』

──浅野さんと山本さんの出会いは?

浅野:7年前、委嘱作品を誰かにご依頼するにあたって(昔から親交がある)作曲家の佐原詩音さんに「どんな方がいいかな」と相談したところ「天才的な作曲家で山本和智さんという方がいる」と。そこで繋がることができました。その後山本さんにご快諾いただき、尺八奏者の黒田鈴尊さんのコンチェルト『Roaming liquid for shakuhachi and orchestra』を書いてくださることになったんです。あの時はすごい情熱をかけて、夜も寝ずに書いていただきましたよね。

山本:はい。1ヶ月ぐらいで出来ちゃいましたね。

浅野:新作のコンチェルトを1ヶ月で書き上げる作曲家は見たことがないです(笑)

山本:本当は“使っていい打楽器のリスト”を浅野さんが送ってくれるから、その後検討するというお話だったんですけど、どんどんプランが出てくるので、そんなの待ってる場合でもなくて。待っていても仕方ないから書こうと思ったら、結局完成しちゃいました。

浅野:「こんな打楽器無いんですけど」って(笑)でもこれはできちゃったものをやるしかないので、一生懸命打楽器を集めてやりました。とても良い曲で再演したいくらい素晴らしい作品ですね。

──なんだかおふたりの音楽的な深いつながりが見えてきた気がします。

山本:そう考えると、あれからもう7年経つんですよね。その時からのお付き合いなので、決して浅からぬ関係ではないかな…。

浅野:そうですね。ちょうどこの前、山本さんから「団員の中に犬飼ってる人いませんか?」という連絡が来て、「何で犬なんですか?」と聞いたら「大型犬1匹、中型犬1匹、小型犬2匹という編成の犬のカルテットを書いたからやりたい」って(笑)

8月の第一回演奏会で書いていただいた新作もそうで、うちのオーケストラ団員が「ソロバンとオーケストラが共演する夢を見ました」と山本さんに言ったらできちゃったんです。こうしたさりげない雑談から新作が生まれるってこともあるので、音楽以外のお話もできる仲という意味では僕たちは深い関係にあると言えるかもしれません(笑)

──だからこそ、記念すべき第1回演奏会では信頼する山本さんに、ということだったのですね。

浅野:そうです!その後も山本さんの作品には何作か関わらせていただいて、アンサンブル・フリーJAPANの1回目には、ぜひ山本さんにお願いしたいというのが僕の中にありました。今回は委嘱作品というわけではないのですが、1発目ではやはりインパクト的にもクオリティとしても、自分の私的な心情としても一番しっくりくるということでプログラムに入れさせていただきました。

山本 和智さん
──アンサンブル・フリーJAPANのコンセプトでもある「日本の新しい音楽を世界に発信し、未来に残すため」に活動する理由は?そして、山本さんの作品も含め、日本発の音楽の魅力について教えてください。

浅野:クラシック音楽に長く関わってきたので、ブラームスやベートーヴェン、マーラー、ブルックナー、チャイコフスキー、ドビュッシー、ラヴェルなど素晴らしい作品だと思い演奏してきて、当たり前ですが、すべて海外の作品なんですよね。逆に日本発の素晴らしい作品を海外の方に演奏してもらってもいいのではないかなと思っています。経済でもそうですが、輸出入のバランスが良くないと文化的にも“受け身”になってしまって、こちら側のクリエイティブな姿勢が今、国民性だとしても薄いと思うんです。文化的なものを“俺たちのもの”という自信を持って、海外の人に 「ぜひ演奏して」という気持ちがあったっていいと思うし、山本さんも世界中探してもこんな作曲家いないので、アルゼンチンやチリで演奏しても全然受けが良いと思います。「日本ってやっぱりすげぇな」という誇りを自分たちも持って文化活動していかないといけないと思うんですよね。そういった意味で日本発というのは自分たちのプライドの問題で大事にしたいところです。

とある方の“夢”がキッカケに、実現したソロバン協奏曲

──今回世界初演の『ソロバン、打楽器、弦楽器のための《マーマレード》』に関して、山本さんがこの作品に込めた想いをお聞きしたいです。

山本:実は想いというのはまったくなくて…。この作品を書いたきっかけは、先ほども話が出ましたが、ある方がSNSで「山本さんが作曲したソロバン協奏曲が定期演奏会のプログラムになったという夢を見た」と、僕をわざわざタグ付けしてくれた投稿があって、それを読んでとても嬉しかったんです。それには色々な理由があって、ひとつは僕という人間を選んでくれたこと。そして、夢の中とはいえ、ソロバンとオーケストラというありえない編成の作曲家に僕の名前を挙げてくれたというのが非常に嬉しかったですね。「こういう曲を書くのが僕の仕事だ」ってその時に思ったんです。だから「この夢は絶対に正夢にしなければいけない」というのが、唯一の想い。あとはどのように音を効果的に聴かせるか、それだけを考えて曲を作ったという感じですね。

浅野:スコア拝見しましたけど、山本さんはソロバンの音をかなり研究されてますね。

山本:もちろんです。ソロバンを何種類か買って試しました。面白いのは素材よりも桁数が多い方が良く鳴るということ。玉がたくさんある方が音量がよくて、実は木であろうとプラスチックであろうとそんなに大きな差がなかったんです。あと、骨董品の「5玉」という大きい目の玉が縦に6つ並んでるものや、小学校で使うような長いものなど色々集めて、勝手にソプラノ・テナー・アルトと名前を付けて、どういう音色が出てくるか研究しましたね。非常に楽しかったです。

研究してるうちに、ソロバンが何という楽器に属するのか、だんだん分からなくなってくるんですよ。つまり、叩けば打楽器になるし、体鳴楽器に違いないけれど玉を弾くこともできるし振ることもできる…という。そんな様々な演奏方法があのマテリアルの中から出てくるというのはなかなかの発見でした。だからそれをいかんなく発揮しつつ、“ソロバンでしか出ない音”。木と木の小さなピースがぶつかるパチパチという音が集合して出てくる美しい音。あれはソロバンでなければ絶対に出ない音色だし、それを素直に皆さんに聴いてほしいと思うんですよね。だから「ソロバンっていうものでしかできない音楽」というのを考えると、必然的に研究しなければなりません。

──ご自身で音を研究されたとなると時間がかかりそうですが…研究にはどのくらいされたのでしょうか。

山本:2週間弱くらいは研究に費やしましたね。先程尺八の話が出てきましたけど、尺八の作品を書くとするなら、尺八でしかできないことを要求するべきだと思います。例えば、フルートの方がうまくいくようなことは尺八に要求すべきではないと考えています。何かで代用が利かない、これは絶対にソロバンでしか無理だというような、みんなが聴いたことのない音。かつ、それできちんと演奏として可能か。この細かい動きでもきちんと聴き取れて、さらに具現化できるかということなども考えると、大体2週間弱くらい経ってましたね。

──経験者や詳しい方にお話を聞くのではなく、ご自身で研究をされるのですね。

山本:今は検索すれば一発で出てくる時代ですが、僕のこれまでの人生においてインターネットのない期間というのが圧倒的に長いんです。つまり検索エンジンのない中で自ら考えて探しにいかなければならない期間が長かったわけです。だから僕たちは聞くよりも自分で手を動かすことをずっと長いことやってきたんです。

1つのマテリアルのどこをどう触って叩けばどんな音がするのかを、自分で探していくしかないです。ソロバンのプロプレーヤーがいれば、楽器選びや演奏法をどうすれば良いか聞きに行きたいです。でも、いない場合はもう自分でやるしかないですし、仮に前例があったとしても僕はやっぱり自分で何か動かしていると思います。

そして、個人的な話になりますが、“自分の好きな音をどうやって導き出すか?”ということを考えます。僕の作品はいずれも「自分の好きな音」で出来ています。自分がいいな、好きだな、良い音だなと思うもの或いは、弦楽器と合わせたら面白いと思うものをソロバンから探し出す作業をする。どうやったら上手くいくかよりも、まずそこから自分の好きな音を導き出す作業を続けていきます。そこから色々考えながら取捨選択する。作曲やものづくりは大きな可能性から絞り込む作業だと僕は思います。さまざまな音をただ書きつけていくというのでは、それは「変な音のカタログ」のようなものであって作品の体をなしているとは言えません。人から聞くことも大事ですが、「作品」にするためにはある「強度」を上げねばならないので、それには自ら手を動かして考える方が僕には早いのです。

──ソロバンの楽譜はどのような書き方をされたのでしょうか?

山本:記譜に関しては、実はそんなに複雑な書き方をしていません。普通の16分音符が並んでいる感じです。例えばルロイ・アンダーソンがタイプライターや紙やすりを使うのは、いわゆる「音楽」に具体音というか非楽音を合わせていく発想だと思います。この作品は全く逆で、むしろその弦打楽器がそろばんのノイズに近寄っていくので、全体的な非楽音的な響き(そろばんのパチパチやジャラジャラ)がずっと大きくなったり小さくなったりするような感じになります。そういう音が僕自身好きで欲しかったので色々研究しました。

今回のソロバン奏者 西久保友広さん

山本:また、プレーヤーの選定については、読売日本交響楽団の打楽器奏者 西久保友広さんにお願いしました。2年前に一緒にお仕事をした時に「変な曲を書いて下さい」って言われました(笑)その時のことを僕は覚えていたので、このお話が来た時にソリストで西久保さんにお願いしようと思いました。彼なら興味をもってくれるだろうという確信があったので、お声がけしたら二つ返事で決まりましたね。

舞台上が一番ホットスポット。僕はホットスポットの一番中心にいたい。

──オーケストラ作品を作り上げる上で、指揮者と作曲者のコミュニケーションが重要だと思いますが、今回重視されたことはありますか?

浅野:山本さんはすごくコミュニケーションが取りやすいですし、アイディアが豊かな作曲家だと思います。僕より山本さんの方が圧倒的にアイディアが豊かで、ヒエラルキーとして作曲家の方が圧倒的に指揮者より上だし、僕の「こう演奏したい」という意志や偏見、意見を入れる必要がないと感じました。だから、言われた通りにやれば大丈夫なので、あまり意思疎通に障害はないと思います。逆に「しょうもない曲なら俺がどうにかする」ような感じになるとややこしくなってしまうので、そういう意味で僕は全然コミュニケーションに問題を感じていないですね。山本さんはどうですか?

山本:僕も浅野さんとのコミュニケーションに関しては、何の問題もないと思います。オーケストラと一緒に仕事をする場合はコミュニケーション能力は特に必要です。少ないリハーサル時間で大人数をコントロールして、自分のやりたい方向に持っていけるような言語化が比較的僕は得意なタイプだと思っています。今までご一緒したアンサンブルフリーEASTとWESTの楽団員の方々は本当にオープンだったので、非常に仕事しやすい空気があったと思います。

今ヒエラルキーの話がありましたが、僕自身はそんなにヒエラルキーを感じたことはなく、指揮者もプレーヤーも作曲家も対等でなければ意味がないと思います。指揮者の「あんまり面白くない作品はこっちで色づけする」という部分もありますが、そう思わせないような曲を書かなければ、と今聞いていて思いました。僕と浅野さんは、良好な関係で比較的密にコミュニケーションできる関係です。

初回リハーサルの様子
──ホームページのトップに掲げてある「あたらしい“オト”」というフレーズが印象的でした。

浅野:新しい音というのは「まだ無い音」なんですよね。無いからスコアだけ見ても想像できなくて、どんな風な音響になるのか。実際のところ分からない。山本さんの頭の中だけにしかないんですよね。それをやることの怖さとか、緊張感とか、楽しみとか。もう色々なものが綯い交ぜになった感じというのは、やはり作ってる方もすごくワクワクしますし、聴いてる方もやっぱり未知のものに対して、興味が惹かれるのではないですかね。

大変なのはやはり、頭の中にないので想像できないから…でもまだリハーサルやってないんです。8月1日に初めてリハーサルがあるので(取材当時)。まあ大変というよりは怖いですね。

山本:怖いですか?

浅野:怖いですね。指揮者観点から言うと、協奏曲なので、ソロバンのカデンツァみたいな独奏部分があって、そこの終わりからオーケストラに繋ぐ時にうまく繋げられるのかとか(笑)

山本:テクニカルな観点で、ですね。

浅野:そうです。プレーヤー目線で見ると怖いです。あのソロバンの音を自分の耳がちゃんと聴き取って、このリズムをちゃんと自分が把握して、オーケストラの部分にうまいこと繋げていけるのかというのを、失敗したら楽曲の印象が全然変わってしまうので。

ソロバンというと、一見ふざけてるのか?という感じがしますが、山本さんは本当に真剣に書かれてるので、音の組み合わせとか、こことここが繋がるというようなところがしっかり描かれてるから、そういうところをプレイヤーとして成功させないと「山本さんワールド」が聴き取れてこないので。ちゃんとお客さまに届けなきゃいけないというプレッシャーと、でも、既存の曲だったら録音とかいろいろ聞けるけど、どんな感じなのかも分からないので。
なんというか“夜道を歩きながら目的地に行く”ような。薄暗くて何となくは分かるけど、もしかしたら途中に溝や落とし穴があるかもしれないし、泥棒に襲われるかもしれないけど、うまいことゴールにたどり着けるのかという感じの怖さですね。

──なるほど。お客さんにとっても、あたらしい“オト”が聴きどころになりますね。

浅野:そうですね。演奏者に緊張感があると聴き手にも伝わると思うんですよね。僕は客席にいるのがあんまり好きじゃなくて。というのは、演奏は舞台上が一番ホットスポットだと思うんです。そこが熱ければ熱いほど、その熱を感じて客席も温かくなって、エキサイティングになってくるんですけども、僕はホットスポットの一番中心にいたいので、指揮者をやってるんですけど、ホットスポットの一番中心で緊張感、ワクワク、未知な体験というのを、中心からお客さんにもできるだけ伝えるように自分が一番ワクワクして、一番緊張していたいなと思いますね。

──浅野さんが思う、アンサンブル・フリーJAPANの1番の強みは?

浅野:「しがらみがない」です。音楽をされている方はわかるかもしれませんが、色々“しがらみ”ありませんか。音楽家の関係とか、指揮者もややこしい人多いし…あとお金ですね。助成金となったら変なことできないですよね。でも、僕は変なことがしたいんですよね。上質な変なことがしたい。その最上級が山本さんの作品だと僕は思ってるんですけどね。

山本:(笑)

浅野:「ソロバン協奏曲やります。」と言って、「100万円出しますよ」という財団があるかといったらないと思いますね。クラウドファンディングしたら300万くらい集まったので、これで十分できるのですが、そういう意味で“しがらみなく変なことができること”が強みかなと思いますね。

──最後に、おとペディアの読者へメッセージをお願いします!

浅野:新しいオーケストラですので、若い素晴らしい演奏家達のフレッシュな音。それから山本さんの新作の未知のワールド。この2つは絶対聴いてほしいなと思います。もしお気に召していただけたら、今後も応援していただけたら嬉しいなと思います。

山本:聴きどころは当然「全部」です。今回のコンサートに関しては、自分の作品があるので僕からはあまりうまく言えないのですが…浅野さんはすごいオーケストラを組織したなと思っています。今は「分かっているものにしか興味がない人」が比較的多いんじゃないかなって。知らないものに対して、拒否反応を持つ人が結構多い気もしているんです。と言いつつ、「真の未知」に対して人間は絶対に恐怖を覚えてしまうんでしょうけど、ただ、よくわからないものに対しての“耐性”のようなものがひょっとしたら大事なんじゃないかな。今ちょうど大学でも教えていて、学生達を目の当たりにしてたまに思うんですが、「もっと知ってる曲を紹介してください」って言われると「教育とはなんだ?」と思ってしまうんですね。でも、やっぱりまるっきり分からないっていうのは恐怖でしかない。さっき浅野さんが「暗闇を歩く」っておっしゃったけど、暗闇や樹海といった「未知」を歩くっていうのはやはり恐怖ですよね。ただ、その未知が自分のすでに知っている場所とか事象につながった時、人は喜びを覚えるんだと思います。

よくわからないものの中に飛び込んで、それが各々の「既知」とつながることを、ぜひこのオーケストラから発信できたらいいなというのと、散々浅野さんが僕を高く評価してくださってたので、これからも僕の曲をたくさんやってほしいなという想いですね(笑)僕としては、これからのオーケストラとしてすごく期待をしています。


アンサンブル・フリーJAPAN第一回演奏会
【日時】2022年8月10日(水)19時開演/18時開場
【会場】J:COM浦安音楽ホール コンサートホール(JR京葉線・武蔵野線「新浦安駅」南口から徒歩1分)
【指揮】浅野 亮介
【料金】一般3,000円(当日3,500円)、学生2,000円 [自由席] *未就学児の入場はご遠慮ください。
チケットは電子チケットサービス「Teket」よりお求め頂けます。 https://teket.jp/3556/12605 
【曲目】
ハイドン:交響曲第1番
山本和智:ソロバン、打楽器、弦楽器のための《マーマレード》(世界初演)*
モーツァルト:交響曲第1番
ブラームス:弦楽六重奏曲第1番作品18[旭井翔一編/弦楽合奏版(世界初演)]
*ソロバン独奏:西久保 友弘(読売日本交響楽団 打楽器奏者)

アンサンブル・フリーJAPAN 公式HPはこちらから→https://ensemblefree-japan.com/