【おとぺディア編集部が語る】藝大受験って実際どうなの?あまり知られていない入試について語る。

謎に包まれし、東京藝術大学。

最近ようやくメディア露出が目立ちはじめたものの、それまではオープンキャンパスも無く、まるで要塞のようだった。受験生の自分にとってはまたそれも魅力的ではあったが。

そんな藝大受験(2012-14年音楽学部器楽科ver.)について、当時の記憶を呼び起こしてみた。

校舎横の桜は毎年綺麗に咲く(2014年撮影)

藝大ではこの流れで試験が行われる。

1月中旬 センター試験 現:大学入学共通テスト

2月中旬 1次試験(実技)

 1次合格発表

2月下旬-3月上旬 2次試験(実技)

 2次合格発表

3月中旬 3次試験(実技、筆記等)

1週間後 最終合格発表

みてわかる通り、3回の合格発表がある。「○次試験で挽回しよう」なんぞできない仕組みだ。そのため非常にシビアな入試である。これほど数字(受験番号)に願いを込めたこともない。

筆者は2年ほど浪人生活を送ったので3回経験したが、この2ヶ月間はまったく眠れなかった。睡眠不足だから緊張と不安で吐き気も止まらず、ご飯も喉が通らない。耳もおかしくなってくるし、24時間ずっと頭がフル回転している状態だった。これぞ負のループ。ここまでの緊張を経験したのは、後にも先にもない。

そして、若いので徹夜が可能な年齢かもしれないが、睡眠は大事だぞ、ということを受験生に伝えたい(睡眠不足だと音程が歪んで聴こえてくるようになり、メンタルが不安定になるので危険である)。


そんな自分が感じた受験で1番大切&大変だった壁。

圧倒的第1位センター試験

※あくまで個人の感想です。

藝大器楽科では、国語英語、が課されている。なんだよ2科目かよ!って思われることは覚悟しているが、それでも辛い(学科によって必要科目は変わります)。

1-3次まである試験の中で最終合否に関わる重要な点数となるからだ。なんとこの最終合否でひっくり返されることが起きる。実技だけが上手ければ…というのは保証されていない。なので受験生でここを恐れていない者はほとんどいないとおもう。

特に音楽学部では学科、はたまた専攻楽器によってボーダーラインが変わってくる。
競争率が高いピアノではおそらく7割以上は必要であろう。ほかの学科も当たり前のようにこれ以上の点数は必要となってくる。たまに3割くらいで入ってくる方もいると噂で聞いたこともあるが、真実は闇の中….。

ちなみに、当時の自分は『音楽バカ』だったので他の勉強なんてそっちのけだった(授業中にDSのマリカーやっていたなんて口が裂けても言えない)。あと言い訳として、音楽大学附属の高校だったのもあって受験に向けた授業は用意されていなかったため、それはそれは苦労した。ちなみに塾には行っていない。

なので、藝大受験を目指す人はまずは確実にここを押さえておくべきだ。
そうすれば安心して実技試験にも集中できること間違いなし!


そしてほぼ同率1位だが、一応

第2位:1次試験(実技)、2次試験(実技)

1次試験は主に技術的な要素をみられる。何パターンにも及ぶ音階やエチュードを演奏することで、音程の精度や右手・左手の技術的な成熟度、さらにはガッツも判定基準にある(はず)。スケールで1音外したとて、絶対に諦めずに最後まで気持ちを切らさないことが重要だ。意外とそういうところも見られているのでは?と3回経験して感じている。そして、この1次試験では結構な人数がふるい落とされるように見受けられる。自分もその1人だった。
日頃からスケールを丁寧にさらい、エチュードを1週間に数曲仕上げていく。日頃のコツコツ鍛錬は時折しんどくなるが、ここで報われること間違いなし!

2次試験では技術的な部分に加えて音楽的表現要素が求められる。和声感が丸裸になるJ.Sバッハや古典のコンチェルト、ロマン派のコンチェルトが課される中で、大変なのはピアニストとの当日のみの合わせだ。コンチェルトではピアノとの演奏が必須になってくるので、学校専属のピアニストとその場で打ち合わせをしなければならない。練習室(音出し部屋)に入って決められた時間内にテンポや表現の部分を伝えていく。絶対に伝えたいポイントは前もって決めておく。そして、ピアノとの演奏は試演会などで慣れていく必要が絶対にあるので、実技の先生と相談すべきだ。
なんやかんや恐怖はあったが、素晴らしいピアニストの方に支えられて好き勝手に演奏できたことだけ覚えているので、安心してほしい。

そんな試験会場には魔物が潜んでいる。普段から試演会やコンクールの舞台に慣れている人でも、試験当日は間違いなく緊張するであろう。試験会場に入れば緊張はMAXピークだ。その魔物に打ち勝つためのオリジナルの方法を伝授したいと思う。
「いやいや、それどころではないわ。」と言われてしまうかもしれないが、楽器を構える前に試験会場の壁をぐるっと見ることが自分ならではの勝ち方だ。例えば、天井をちらっと見る、でも良い。「お客さんはジャガイモ」的な思い込みと同じように、試験官の教授たちを見まいとしがちだが、そこはあえて空間を見ることで音が縮こまることを防げる気がしている。ジンクス的なことを色々と試していくと、自分にとっての良い方法が見つかるので実践すべし。


第3位というより、限りなく2位に近い3位だが

第3位:3次試験(実技・筆記等)

やっとの思いで乗り越えたその先は、いよいよ3次試験。

楽典、ソルフェージュ(新曲・聴音)、副科ピアノが待ち受けている。ここまでくると知り合いがたくさんいるので、楽典の教室は割と和気藹々な雰囲気(年度によると思いますが)。だが、この試験も大きなトラップなので油断大敵だ。件の通り、センター試験と同じく3次試験が+αとして加算される重要な通過点となるからである。そのための対策は必須だ。頻出傾向はあるものの、どこまでやれば良いというものが存在しない。楽語(Allegroなど)はいくらでもあるし、楽曲分析も数をこなして慣れなければ強い気持ちで臨めない。ソルフェージュも同様に、市販の教本に頼りつつ毎日何問か書き取りをした。不思議なことに毎日やれば書き取りスピードもモチベーションも上がる。語学の勉強と似ているかもしれない。

副科ピアノは毎年似た課題曲となっているため、なんと1年以上前から練習することができる。(極端だが)全調スケールも課されているわけだが、何調になるかは当日まで分からない。ちなみにそれは待機室の黒板に描かれるので要チェックだ。ハノンに記してある指番号の言うことを聞くのが苦手な自分は泣きながら練習したのも、また良い思い出。あれからハノンは1度も弾いていない。

私はこれらのレッスンに週1回通ったが、元々楽典が苦手だったのでとにかく勉強したのを覚えている。正直、実技試験よりも怖すぎたのは3次試験だった(実技の先生に「3次試験終わりました〜」と浮かれた電話をしたところ「落ちる可能性あるから喜ぶな」とピシャッとされた)。


3次試験が終わって約1週間後に最終合格発表を迎える。

もちろん試験が終わっても、恐怖で眠れない。受かって入学した後のワクワクと、落ちて浪人が決まった時のショックと、両方の妄想がぐちゃぐちゃに混ざった感情が戦った7日間だった。何しても結果は覆らないと分かっていても、毎日合格を願っていた。それもあってか自分の受験番号を見つけた時の感動は今でも覚えている。ずっと支えてくれた父が大喜びだった姿も、心にくるものがあった。
“大学は通過点に過ぎない”なんてよく言われるが、自分の力で掴み取った大学生活だから、私の中ではひとつのゴールテープを切ったのを2014年としている。人生の中で本当に良い時間を過ごせたと思える1つの経験だ。浪人という選択をし自分と向き合い続けた2年間にも、後悔はなにひとつない。

終わりの始まりは、この門をくぐったその先に待っている。

入学式はこの門の前で写真を撮るのが恒例(ちなみに改装される前)