【ドイツ・リューベックからお届け Part.2】留学して変化した練習方法と、ホルン吹きが考える”ホルンの魅力”

2018年東京藝術大学を卒業後、広島交響楽団ホルン奏者を経て、現在はドイツ・リューベックにて留学中の鈴木一裕(すずき かずひろ)さん。

多角的な視点と経験を持つ鈴木さんのお話を3回に分けてお届けします。

第2回『留学して変化した練習方法と、ホルン吹きが考える”ホルンの魅力”』

ードイツで勉強している今、日本にいた時と比べて練習に対する考え方は変わりましたか?

鈴木さん:日本ではほぼ同じルーティンで練習をしていたんですよね。今までの先生に習った基礎練習をほぼ同じ内容で取り組んで、決まったウォーミングアップ、決まった基礎練習、その後にソロ曲やオーケストラの曲、エチュードをさらってました。例えば練習室を2時間予約していた場合、1時間練習して、ちょっと休憩して、また1時間練習して…とか。下手したら2時間ずっと吹き続けていて、ただひらすらに練習すれば良いと思っていました。気づいたらそうなっていましたね。

というのも、高校時代が「とにかく練習!」「とにかく吹けばいい!」だったので、楽器を吹くことだけにスポットを当てていました。出来ないところがあれば繰り返し練習するだけ。でもそれだけで上手くなるのはなかなか難しいので、自分が出来ていないことへの対策が必要ってことは気付いてはいましたが、じゃあ何をどう対策したらいいのか、分かっているようで実は分かっていなかったんです。今もその手札を増やしてる最中ですが、ドイツの先生のレッスンを受けた時に、「今はこれができない」「じゃあそのためにはこういう基礎練習をしたらどう?」という提案をもらえたんです。今までは不特定多数の状況に備える姿勢でザックリしすぎていた練習だったのですが、現在は的を絞った練習メニューを考えるようになりました。

推しビール

ーなんとなくの練習ってやりがちなんですよね…。的を絞るために練習時間の使い方も変えましたか?

鈴木さん:練習時間の配分を変えた今は、20分吹いたら15分~20分休む。同じだけ休みを取る、っていうのをやっています。ホルンは物理的に疲労が出やすい楽器で、今までは2時間練習したらもうこれ以上は吹けないってなっていたので、今思えば良くない練習方法だったなあと思っています。今は20分吹いたら20分休んで…というサイクルを何セットか繰り返すんですが、練習を終えた後の疲労の度合いがまったく違うんです。疲れないほうが身体に負担がない、っていうことは良い吹き方が出来ているのかなと思えるようになってきました。

あと練習の最初にザックリとしたメニューを考えています。

20分ウォーミングアップ→休憩→20分エチュード①→休憩→20分エチュード②→休憩….

みたいなプランを作って練習に臨む。そうすると効率が良いような感じがしています。口の疲労度ももちろん違います。あと休憩の過ごし方も工夫していて、ポケモンやることもありますが(笑)楽器を吹かない時間に楽譜を読むというのをやっています。脳内で練習というか。例えば、音名を歌って自分がどういうふうに演奏したいのかを確認したり。あと、指と自分の口が連動しきれていないことがあるんです。そうすると、ただ吹くっていう練習だけだとそれがいつまで経ってもクリアされていかなかったんだな、と。その時に、とある先生が『歌いながら指だけ動かす』という練習方法を教えてくれました。昔やったことあるものの、今の状況とはまた意味合いが変わっていて、今は「自分の歌のタイミングと自分の指のタイミングが合っているのか」。よく知っている曲でも意外と起きていて、通して吹くとリズムが崩れたり音が入らなかったりってあったんですが、この問題を解決してから実際に演奏すると、すごくスムーズにいったりします。ドイツにきてから、楽器を演奏しない練習方法っていうのをたくさん取り入れるようになりました。

ーなるほど。楽器を演奏しない練習方法っていうのも、イメージトレーニングになりそうですよね。

鈴木さん:あと、先生に演奏の助言をいただくタイミングや、誰に言われるかっていうのも大きい気がしています。「前にもこれ言われたけど、その時の俺には響かなかったんだよな」ってことががたまにあるんです。先生や人に言われたことをどのくらい自分のことととして消化できるのか、考えてどうにかできるものなのかタイミングとして受け取れるのかは分かりませんが、どこにヒントがあるのか分からないので、どのヒントが自分に適しているのか、そこが重要だなって思います。

例えば日本で何か言われたことがあったとして、その後ドイツでまったく違うテーマで演奏上の技術的な課題を改善しようとしている時に、「あの先生ってああいうことが言いたかったのかなあ。」ってリンクすることがあります。その時は自分に響かなくても覚えていた方が後々役に立つことがたくさんありますね。逆にそれが害になることもあって、自分の中にあることでストッパーかかることもあるので、自分で見極めるのが大切かもしれません。

学校の目の前。ここで友人とビールを飲んだりしています。
22時過ぎのリューベック。夏は明るい。

ーそんな鈴木さんにとって、ずっと寄り添い続けている“ホルンの魅力”ってどんなところですか?

鈴木さん:ひとつは、やっぱり音がカッコイイ。オーケストラの中で聴くホルンはカッコイイ。音域が上から下まですごく広くて、ひとつの楽器から繰り出されるハーモニーの感じがビターッと合わさった時に、心打たれます。あとホルンは金管楽器ですが、音色が柔らかいので木管アンサンブルにも混ざれたり、弦楽器との掛け合いもすごく好きです。様々な表情を作れるので、いろんな楽器と混じれる音色を持っているところが魅力ですね。ん〜でもなにが1番っていうと難しい…..。

あとは歴史的にも面白い。”ナチュラルホルン”と呼ばれる今のホルンの起源となる原始的な楽器があって、モーツァルトやベートーヴェンの時代には存在していたんです。例えばモーツァルトの協奏曲をやりますってなった時に、先生から「ナチュラルホルンでやってた時と同じ奏法で吹いてごらん」と言われたことがあって。つまり、今の奏法の指を使う吹き方はなくて、右手の開け閉めと口の使い方だけですべての音域をカバーします。そのくらいすごくシンプルな作りな楽器です。モーツァルトの協奏曲はその奏法で作曲されているので、ナチュラルホルンの奏法を再現することで、音楽の運び方やこの音はナチュラルホルンでは強く吹けない、とか、そういう興味深い歴史的な背景がたくさんあります。

そして、色々な作曲家がホルンを愛してくれていたであろうと僕は思っています。交響曲のここぞ!という時にホルンのソロがあったり、全員で演奏している時に『いぇーい!どーん!!優勝!!!』みたいなメロディが回ってくると「あ〜やっぱりホルンやってて良かったな〜」って感じます(笑)それこそハーモニー作る箇所もです。モーツァルトは4曲も(4.5曲)ホルン協奏曲を作ってくれたり、色々な作曲家の曲にホルンの素敵なメロディがたくさんあるっていうのも魅力かな。

ー確かに、見せ場ではホルンはいつも輝きが増しているように思います。吹奏楽でもオーケストラでも大活躍しているホルンを、色々な方に聴いてもらえると良いですね。

鈴木さん:僕は9年間吹奏楽ばかりやっていたので、オーケストラ曲を聴くってことはしてきませんでした。しかも自分の先生はオーケストラにいたのに、ほぼ0に等しかった。高校の吹奏楽部ではオーケストラ曲の編曲をやったりもしていましたが、その時は編曲バージョンばかり…。なかなか他のオーケストラ曲を聴こうってはならなかったんです。でも大学に入ってから色々な曲を知るようになって、吹奏楽ももちろん素晴らしいですが、オーケストラもすごく素敵だ、と。自分にとって吹奏楽ありきのオーケストラだったけど、そうではないんだよ、ということを吹奏楽しかやったことない方々に興味を持っていただけたら嬉しいなって思っています。こんなにカッコイイ曲がめちゃくちゃあるんだよ!っていうところは、吹奏楽だけでは知ることができないことがたくさんあるので!

次回は最終回!ドイツ留学についてのお話です。